「レールを外れた子にもチャンスを」 スポーツを通じた人材育成目指す芦屋大(前編)

 指導者は常に勝利という結果を出し続けなければならない。日本の学生スポーツ界における「勝利至上主義」の弊害はしばしば指摘されているが、チームの勝利よりも個人の成長を最大の目標とした取り組みを行っているのが、芦屋大学だ。

  特に力を入れているのが野球とバスケットボール。芦屋学園グループの芦屋学園高校と芦屋大学の野球部は競技連盟には所属せず、BFL(ベースボール・ファースト・リーグ)の兵庫ブルーサンダーズと提携。元プロ野球選手の指導を受けながら、個々の成長を目指している。芦屋大学のバスケットボール部は、Bリーグ・西宮ストークスの下部組織、兵庫インパルスの一員として活動している。チームには芦屋大の学生をはじめとして、高校生から社会人まで幅広い世代の選手が所属。既存の枠組みにはまらない同大の取り組み、部活や指導者のあるべき姿について、比嘉悟理事長にお話をうかがった。

Q 2013年にスタートした、「甲子園や神宮を目指さない野球部」という芦屋学園高校、芦屋大学の取り組みが話題になりました。競技団体に所属せずに活動するという、前例のないプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

A 日本でプロ野球選手になるためには、高校や大学、社会人の強豪チームでプレーしなければなりません。それ以外のルートでプロになるのは本当にひと握りです。 しかし、野球をやりたいけど部活になじめない、などの理由で挫折したといった話をたくさん聞きます。私は甲子園に出なくてもプロを目指せるという新しい道を作りたかった。そこで、兵庫ブルーサンダーズと連携して、プロの指導を受けプロと交流することができる野球部を芦屋学園高校と芦屋大学に作りました。2017年で芦屋学園高校の取り組みはいったん終了しますが、芦屋大については引き続きブルーサンダーズと一緒にやっていきます。

Q 結果として、2人のプロ野球選手(山川和大投手=2016年・巨人、田中耀飛外野手=2017年・楽天)が誕生しました。山川投手は軟式野球出身という異色の経歴です。

A 片岡篤史コーチ(元阪神)を始めとして、元プロの指導者が選手全員を色眼鏡なく平等に見てくれます。それがコーチ本来のあり方。他の野球部だと、どうしてもチームの勝利を優先した指導になりますが、ブルーサンダーズは試合に勝つことを求めていません。個人の成長を第一に考えています。それが結果となって現れたのが、二人のプロ選手の誕生です。

Q バスケットボールでも、芦屋大の学生が兵庫インパルスの一員としてプレーしています。取り組みの狙いを教えてください。

A このプロジェクトのゴールも、チームの勝利ではなく個人の成長です。兵庫インパルスは2015年にbjリーグの下部リーグであるbjチャレンジリーグに参戦し、現在はBリーグ・西宮ストークスの育成組織として活動しています。兵庫インパルスでは戦術を含めて西宮ストークスと同じコンセプトで活動しており、優秀な選手がトップチームに昇格した際にすぐに順応できるように準備しています。インパルス出身でストークスに入団した選手はまだいませんが、元プロバスケ選手の勝又英樹コーチの指導のもとで、これまでに3人のプロ選手をBリーグに送り出しました。

 また日本全国のBリーグを目指すクラブチームなどを対戦相手に芦屋大の体育館で有料試合を定期的に実施しています。イベントを仕切るスタッフはすべて芦屋大の学生ですが、授業の一環として携わっていて、企画から集客、当日の運営までをすべて学生主体で行います。スポーツイベントの運営という観点から、学生たちの大きな学びの場となっています。

Q 日本には「スポーツは教育であり、お金を儲けてはいけない」という風潮が根強くあります。

A 私もそうですが、多分そういう風に刷り込まれてきたのだと思います。スポーツは金儲けじゃない。スポーツは神聖なものだから、お金のことを言ったらダメだと。でもスポーツをするにはお金がかかります。特に小中学校の指導者は大変。優秀な先生はもっと高い給料をもらってもいいはずです。 お金のことを切り離して考えていると、スポーツの発展はありません。

Q 既存の枠組みとは異なる取り組みをされている一方で、日本の「部活動」の価値を高く評価されています。

A 部活動は日本が世界に誇る文化遺産だと思っています。あいさつや礼儀を教えて、能力が高い子も低い子もみんなを成長させる。スポーツにはそういう目に見えない価値がたくさんあります。しかし、「ただ勝てばいい」という指導者がまだまだ多いのが現状です。人を成長させてこそスポーツ文化が成熟していくと思います。

Q 野球とバスケットボールの取り組みで得た収穫と、課題を教えてください。

A 結果的に良かったこととしては、二人のプロ野球選手を育てて、私たちの取り組みの正しさを証明できたことです。プロ入りした軟式野球出身の山川を始め、多くの選手は強豪高校の野球部出身ではありません。他の大学に入っていたら2軍や3軍で埋もれて、芽が出なかったかもしれません。しかし、うちでは高校の時に認められなかった子どもが飛躍的に成長する。人間はどこからでも変われるということです。

 課題は学生たちがキャンパスと練習場の移動にかなりの時間を取られていることです。文武両道を実践する上で、勉強時間を確保するのに現実的に難しい部分があります。そこは時間割の調整も含めて、やり方を考えなければなりません(後編に続く)。

▽比嘉悟理事長のプロフィール

​1950年生まれ。日本体育大学卒業。大阪府の高校教諭、校長を経て、2010年に芦屋学園のスポーツ教育センター長に就任。2014年から芦屋大学の学長を務めている。バスケットボールの指導者としては、日本体育協会の上級コーチの資格を持つ。かつては全国高体連の副会長、日本バスケットボール協会の強化本部長補佐を務めるなど、スポーツ界の人材育成に努めている。

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