「レールを外れた子にもチャンスを」 スポーツを通じた人材育成目指す芦屋大(後編)

前編では競技団体に所属せずに、個人の成長を目指す芦屋大の野球部とバスケットボール部の取り組みを比嘉理事長に説明していただいた。後編ではこれらの取り組みの背景にある、比嘉理事長の日本のスポーツ指導者に対する問題意識、指導者のあるべき姿についてお話をうかがっていく。


Q 指導者の問題点はどこにあるのでしょうか。

A 日本の指導者は、現役の選手からそのままコーチになる人が多いと思います。自分ができるので、指導力があると勘違いしてしまう人が多い。指導者はもっとコーチングの勉強をしなければなりません。競技人口でサッカーが野球を抜いたというデータもありますが、サッカーは地道な指導者の養成をやってきたからだと私は思います。野球はまだまだ人気がありますが、このままでは50年、100年のスパンで考えたらどうなるかわからない。また、部活動を指導する先生全般について、一般の企業で一定期間働く必要があるでしょう。「先生、先生」と言われて勘違いしてしまうケースもありますから。

Q 比嘉理事長自身も大阪のバスケットボールコーチ時代に、秋田まで教えを請いに行かれたと聞いています。

A かつては、試合に勝てない時は生徒の責任にしていました。教師になって7年目に地区大会で1回戦負けして、初めて自分の指導力がゼロだということに気づきました。当時、全国優勝を30回以上果たしていた、能代工業高校の加藤廣志先生を訪問して多くのことを教えていただきました。コーチである私の態度が変わると、生徒たちの練習に取り組む姿勢や表情が変わり、日々成長していくのを実感することができました。それから3年後には府立高校ながら、インターハイに出場することができました。

 指導者は常に勉強しなければいけません。指導における知識やポリシーがないと、自分の考えを否定されるのを恐れて、子どもたちに言いっ放しになってしまいます。私も67歳になって、ようやく批判を素直に受け止められるようになってきました(笑)。

Q 
スポーツだけでなく学業も重視されていて、文武両道を理念に掲げています。

A 最初にスポーツが得意な子を集めた時、「"スポーツ難民"をそんなにたくさん集めてどうするのか」と教授たちに言われました。NCAA(全米大学体育協会)に加盟するアメリカの大学では単位が取れないと、練習や試合ができない仕組みになっています。私は当初からそれを目指していました。今ではスポーツをやっている子たちの方が、勉強ができるようになっています。日本では競技のことだけで、ちゃんと勉強させる指導者がまだまだ少ないと思います。本当に優秀なアスリートは、頭がいい子が多い。テストの点数が高いということではなく、謙虚に学ぶ姿勢を持っています。

Q 現在は野球とバスケットボールを中心に活動されています。将来的にはどのような取り組みを目指されていますか。

地域に愛される特色づくりが大事です。芦屋市とも提携を結んだ上で、野球やバスケットボールを子どもたちに教えるなど、地域に密着した活動をしているのですが、それをもっと推し進めていきたい。芦屋市の中に私立大学は一つしかありません。芦屋市の人口は10万人弱ですが、地域のファンを増やして身近に感じてもらう。地元に愛される大学、スポーツチームを目指していきます。今後は野球とバスケのモデルを他競技にも横展開していきたいです。我々の考えに賛同する学校が増えてくれば、社会に対してより大きな影響を与えられると考えています。

Q 日本のスポーツ界、指導者についてのご意見をあらためて聞かせてください。

A アメリカの子どもを大事にした教育と比べて、日本の現状は使い捨てです。ちょっとつまずいてレールから外れてしまったら、チャンスが与えられないことが多い。 チャンスさえ与えれば、人間はどこからでも変われます。「甲子園を目指さない」こともそうですが、日本のスポーツの構造自体を考え直す時期に来ているのではないでしょうか。我々のような取り組みをする学校が増えていけば、スポーツ界の仕組みが変わっていくと思います。

 また、指導する上で自分のポリシーがない人が多いのではないでしょうか。ただいい選手を集めて勝つ。それだけでは見ていて魅力がありません。学生スポーツにおいては、スポーツを通じて「見える学力」ではなく「見えない学力」を育てる。社会で通用する子供を育てるのが指導者の本当の役割です。

▽比嘉悟理事長のプロフィール

​1950年生まれ。日本体育大学卒業。大阪府の高校教諭、校長を経て、2010年に芦屋学園のスポーツ教育センター長に就任。2014年から芦屋大学の学長を務めている。バスケットボールの指導者としては、日本体育協会の上級コーチの資格を持つ。かつては全国高体連の副会長、日本バスケットボール協会の強化本部長補佐を務めるなど、スポーツ界の人材育成に努めている。

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