「ハンドボール世界一の国、デンマークで学んだこと」 法政二高ハンドボール部 監督 阿部直人

2018年の第5回ジャパンコーチズアワードで優秀コーチ賞に輝いた法政二高ハンドボール部の阿部直人監督がこのほど、デンマークでの一年間にわたる研修生活を終えて帰国しました。ハンドボール世界一の国で学んだ指導方法や、日本とは異なるスポーツ文化について、JCAに寄稿いただきました。

阿部直人(あべ なおと)
早大を卒業後、日本リーグでのプレー、法政二高ハンドボール部でのコーチ経験を経て、1999年に同チームの監督に就任。人間教育を重視した指導でチームを強化し、2017年に選抜、インターハイ、国体で優勝し、「高校三冠」を達成した。2006年から2015年までは世代別日本代表のコーチも努めている。

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 こんにちは。法政二高ハンドボール部の阿部です。
 私は監督として、2017年に3度ある全国大会(選抜、インターハイ、国体)のすべてで優勝し、高校三冠を達成することができました。そして18年度、学校の制度を利用して、男子ハンドボールにおいて「世界一」の国であるデンマークで研修の機会を得ることができました。今回は、私の1年間の研修生活の様子と、現地で学んだことを皆さまにお伝えしたいと思います。

【ハンドボール人気高い、デンマーク】
 デンマークは、バルト海と北海に挟まれた多くの島々からなる北欧の国で、日本から飛行機でおよそ11時間のところにあります。人口は約550万人、面積は九州ほどしかない小さな国ですが、ハンドボールはサッカーに次ぐメジャー競技であり、男子は2016年のリオデジャネイロオリンピックと今年1月の世界選手権(ドイツとデンマークの共催)で優勝しました。世界選手権の決勝は、デンマークのヘアニングという都市で行われましたが、会場は1万5千人の超満員で、デンマーク国旗の赤一色で染まりました。そして、優勝が決まると、町中が歓喜の渦に包まれました。
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【知の欲求を満たす、成人教育機関】
 私はフォルケフォイスコーレ(以下フォイスコーレ)といわれる学校に所属していました。フォイスコーレはデンマークで生まれた全寮制の成人教育機関で、哲学や政治、芸術(音楽、美術)、デザイン、スポーツ、福祉、経済などの多様なカテゴリーを扱っています。私の所属していたフォイスコーレはスポーツがメインで、ハンドボールアカデミーがありました。アカデミーではハンドボールの授業が週4回あり、先生は元デンマーク代表選手2人でした。先生の1人は、フォイスコーレの卒業生でもあり、ここでハンドボール選手として成長し、その後プロ選手となって世界で活躍しました。生徒はデンマーク人だけではなく、ノルウェー人、ドイツ人、そして英国人(代表選手)、カナダ人(代表選手)らもいました。自国の強化だけではなく、ハンドボールの発展のために他国の選手にも惜しむことなくデンマークのハンドボールを伝える姿勢は、本当に素晴らしいと思いました。
 日常生活はというと、平日の日中は学校に通い、放課後はプロチームの練習や試合を見に行ったり、ときにはユース年代のチームを指導したりという生活を送っていました。

【対等な指導者と選手】
 デンマークで最初に感じたことは、「指導者と選手が対等」であることです。これは、日本とは大きく違います。指導者が上、選手が下ということはなく、互いに一人の人間として尊重しています。それは、どの年代においても同様です。もちろん、練習中は厳しい表現で指導することもありますが、威圧的な指導を見ることはありませんでした。試合では、審判や観客も含めて対等の関係です。試合中、監督が審判に猛アピールすることもありますが、人格を否定することはなく、互いを尊重し合っています。そのような土壌があるからこそ、ハンドボールやスポーツが文化として根付いているのではないかと思いました。日本では、まだまだ「指導者が上」という感覚が根強いと思います。スポーツをより根付かせ、あらゆる人たちにとって生活の一部になっていくためにも、指導者のポジティブな変化(成長)が求められると思います。

【短時間練習と多様なメニュー】
 練習時間は長くても2時間。そして指導者は、選手のモチベーションをとても大切にしています。2時間の練習をテンポよく、決して飽きさせないように工夫します。そのため、多様な練習メニューがあり、指導者は日々、新しい練習方法を考えて選手に提示しています。同じような練習を何日も続けて、惰性に流されないようにしているのです。そのため、選手は手を抜くことなく、短時間の練習に100%の力で取り組みます。日本の指導者も、このやり方を学ぶべきだと強く思いました。個人的には、日本人が世界で勝つためにはコツコツと技を磨くことも必要だと思いますが、毎日惰性で同じことを繰り返すことがないようアプローチすることは、とても重要だと思いました。また、昨今の日本スポーツ界で起きている数々の問題を考えると、日本のスポーツ界、特に指導者は大きく変わっていかなければならない時期に来ていると思います。強制や恐怖による外発的モチベーションでの練習を完全に排除し、内発的モチベーションを上げる指導が大切であると思います。
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【アスリートとセカンドキャリア】
 デンマークでは、スポーツは学校体育ではなく、すべて地域クラブで行われます(スポーツ施設は本当にたくさんあります)。そのため、スポーツの能力と進学はまったくの別物です。日本のようにスポーツで高校、そして大学に進学することはできません。ハンドボールのプロ選手になることを目指しているユース年代の選手も、セカンドキャリアのことを考え、学業も怠ることなく行っています。高校卒業後は、大学に通いながらハンドボールをプレーする選手もいます。私がよく練習を見学させていただいていたスキャナボーというトップリーグのチームには、セカンドキャリアで農業をする(家業を継ぐ)ため、あるいは弁護士や教師になるために勉強をしている選手がいました。この状況は、日本のハンドボール界とは大きく異なります。日本ではハンドボールだけをして、日本リーグまで進む選手が圧倒的に多い状況です。現役引退後の人生の方がはるかに長いことと、それを含めて充実した人生を送ることの重要性を伝えることが、本当に大切だと思いました。スポーツ選手が競技を引退後に次のステージで社会貢献することで、多くの人たちから共感が得られ、スポーツが文化として根付くことにつながるのではないかと思います。
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