投球制限、高校野球だけでよいのか? =多方面から検討、悔いの残らないような規定を=

ジャパンコーチズアソシエーション(JCA)で理事を務める日本体育大学野球部の古城隆利監督(日体大スポーツマネジメント学部助教)が、高校野球界で話題となっている「投球制限」について、コラムをしたためてくださいました。単純な賛否だけでなく、各方面からいろいろな意見が出ているこの話題。皆さんはどのようにお考えでしょうか。

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高校野球で投球制限導入の是非が問われていますが、高校野球だけ導入したところで、将来有望な投手を肘痛や肩痛などの投球障害から守れるのでしょうか?

2019年度、日本プロ野球12球団の開幕投手は、阪神タイガースのメッセンジャー投手(米国出身)を除くすべての投手(11人)が、中学時代に軟式野球をプレーしていました。成長期である中学時代に重い硬式球を投げていた投手より、軽い軟式球を投げていた投手の方が、プロ野球でエースとして活躍しているということです。

投球障害を起こす最も大きな原因は、投球フォームの未熟さにあります。肘や肩にストレスが掛からない投球フォームであれば、いくら投げても障害を発症することはありません。また、正しいフォームで投げていたとしても、過度の投球からの疲労でフォームを崩して肘や肩にストレスが掛かり、障害を発生します。技術が未熟で、筋力の弱い小学生や中学生は、体の成長に応じた球数の規定や投球の頻度の制限を設けるべきです。

小学生は、ほとんどの選手が軟式野球を行っています。軟式球J号(約129グラム)のボールを、投手板から本塁までの距離16メートルで投げていたのが、中学生で硬式野球を始めると、硬式球(約145グラム)を投手板から本塁までの距離18.44メートルの距離で投げなければなりません。ある研究では、加速期において肘関節外反方向へ掛かる力が、小学生から中学生で1.8倍になることが分かっています。まだ体が小さい中学生、特に1年生には大きな負担となります。

メジャーリーグ(MLB)で活躍するダルビッシュ有投手(テキサス・レンジャーズ)や田中将大投手(ニューヨーク・ヤンキース)、大谷翔平投手(ロサンゼルス・エンゼルス)は、中学時代から硬式でプレーしていましたが、当時から身長は170センチを超えており、重いボールに耐えられる体格を持っていたと考えられます。

軟式球がなく、少年期から硬式球を使用している米国では、投球過多による障害から若い投手を守るために、MLBとUSA BASEBALL(米国のアマチュア野球統括団体)が『PITCH SMART』として、年齢に応じた投手の投球制限のガイドラインを提唱しています。(表1)

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表1『PITCH SMART』

私は高校野球における投球制限の導入だけでなく、それまでの成長過程での保護が必要である、つまり、高校野球をやる以前に投球障害を引き起こしてしまい、投手としてのプレーを断念している野球少年を救わなければならないと考えます。

さて、問題の高校野球ですが、2017年に高校野球連盟に登録されていた高校3年生は53,359人だったのに対し、2018年に大学野球連盟に登録された1年生は8,093人でした。つまり、大学に入って野球を続けた高校球児は15.1%ということになり、社会人野球やプロ野球に進んだ者を加えても、実に80%に上る高校球児が、高校で競技スポーツとしての野球を終えてしまうのです。

自身の集大成として臨む高校最後の大会を『100球に到達したので交代』や、少人数の高校で1試合勝つのが目標というチームが『投球制限でエースが降板、打ち込まれ敗退』となってしまうなど、青春を懸けた最後の大会が、悔いの残るものとなってしまう規定ではいけないと思います。

もちろん、将来プロで活躍するような才能豊かな投手を、甲子園という舞台での炎天下の試合や過密日程で潰すようなことがあってはいけません。準々決勝以降の試合では、少なくとも2日以上の休息日を設けるなど、終盤の日程の緩和を図るべきで、過密日程で高校生を疲弊させるような運営の見直しの議論が先にあるべきではないでしょうか。

また、高校野球では、大会ごとに出場選手を登録するため、たとえば前日に150球を投げた投手でも翌日もベンチに入っています。すると、先発投手として出場しなくても、チームの事情で急きょ登板ということも起きてしまいます。投球制限を厳格に設けるのであれば、1試合ごとに出場選手を登録し、「150球を投げた投手は登録することはできない」とすれば、徹底できます。また、現状では、大会中に怪我をした選手でも、ベンチ外の選手と交代することはできません。こちらも、1試合ごとの登録にすれば、大会前にベンチ入りメンバーを外れ、一足先に夢を絶たれてスタンドでの応援しかできない部員たちの希望にも繋がり、チーム一丸となって高校野球を終えることができるのではないでしょうか。

少し話が広がってしまいましたが、『投球制限』だけでなく、日程や選手登録も議論していくべきだと考えます。高校野球をプレーする選手が野球を終えるということは、選手だけの集大成ではなく、子供のころから支えてきた家族の集大成でもあります。選手や家族が完全燃焼で終わることの出来る仕組み作りを第一に考えていただきたいと思います。


JCA理事
日本体育大学スポーツマネジメント学部 助教
日本体育大学野球部 監督
古城隆利

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「投球制限」、条件付きで7割が賛成

JCA会員(野球指導者対象)アンケート


JCAでは3月20日から27日にかけて、野球指導者の会員を対象にアンケート調査を実施しました。「投球制限」や「丸刈り」といった賛否両論がある課題などについて質問し、小中高および社会人の指導者27人から回答がありました。アンケート結果の詳細は、以下をご参照ください。

① 投手の投球制限について賛成か反対か

・全面的に賛成=22%
・条件付きで賛成=48%
・反対=11%
・どちらとも言えない=19%

▽賛成の理由
・個人差がある子どもたちの身体の成長や疲労度に合わせて、球数制限が設定されるべき
・投球制限に限らず、野球による障害発生をゼロに近づけていく取り組みが重要
・球数制限が「選手の身体を守るために何が必要なのか」を主題に、多分野からのアプローチや議論が活発になされるきっかけになれば...
・将来のある選手たちの怪我を防ぎ、野球を生涯スポーツにしてもらうため
・子供たちの安全確保が最優先だが、少年野球の指導者が無知な上、少年野球界は特に危機感がない。上層部から強制的にでも実施しないと、解決の道はない。

▽条件付きで賛成の理由
・高校野球よりも、少年野球、中学硬式野球で足並みをそろえて実施してほしい(複数)
・少人数チームがいる中での制限は酷。むしろ休養日を作る、大会日程にゆとりを持たせるなどの方が先決なのでは?(複数)
・障害の発生が、球数制限だけで改善されるとは思わない。本質は球数ではなく、フォームや個別性にあると考える
・指導者の役割として、ルールの抜け道を探すことではなく、本来身に付けるべきスポーツマンシップの本質を理解し、選手に浸透させることが重要
・球数よりもイニング制限の方が、試合に影響しづらいし、待球作戦も防げると思う
・初期段階での全面導入には賛否あり。まずは徐々に始めていくべきでは?

▽反対の理由
・選手が少ないチームが不利になるため
・球数の配慮、管理は指導者がするべきだと思う。球数が多すぎる試合でも、投げ切らせることがその選手にとってプラスになる試合もあると思う
・投球制限をかけることにより、野球そのものが変わってしまうことを懸念する

▽どちらとも言えない理由
・投球スキルを習得するため、再現性の質を高めるためには、ある程度の反復練習が必要だと考えるため

② 丸刈りなどの頭髪ルールを設けているか

・設けている=22%
・設けていない=78%

▽ルールを設けている理由
・規律と秩序をつくることは大切だと思う
・少しでもお金がかからないようにと思って、丸刈りでやらせている
・誘惑の多い中学校生活で勉強・野球(文武)に打ち込む覚悟の印として位置付けている

▽ルールを設けていない理由
・頭髪を規制する理由がない、分からない(複数)
・個々の自主的な判断によりスポーツマンらしく清潔感のある髪型にすることが、チームの統率に繋がる(複数)
・髪型と野球の技術向上は何ら関係がない(複数)
・よほどの長髪以外は問題ないと思うし、女子も長髪でプレーしているから。不潔な髪型になっていなければ問題ない
・短髪であればOKとしている。坊主にしたら部員が増えなくなるため
・やること(文武両道)をやるなら髪型は関係ないと言っている。それでも選手は9割が自主的に坊主にしている。それについても言及していない
・中学硬式野球チームなので、選手の通う学校もさまざま。頭髪の矯正は、平日の学校生活に支障をきたす恐れもあるため
・設けていないが、社会通念的に...という理由で金髪などはNGとなっている。「染められない、おしゃれできない」と感じている選手もいると思う